RPAでもAIでも、そして人間でもできないことはあります。
その可能性を知る上でも、限界や出来ないこと、
不得意分野を知っておくことは、導入や活用する場合にとても重要です。
また、研究や実験の場合はまだ良いのですがビジネスで利用する時には、
コストパフォーマンスが気になるところです。RPAツールによって、
それぞれ限界や制約事項は違いますので、ベンダーやSIerとの綿密な調整も求められます。
RPAの限界と制約を具体的な事例も踏まえながら、対策のソリューションも考えて行きます。
RPAのクラスで違う限界点
総務省ではRPAのランク(クラス)を次の3段階に分けています。
ここではRPA=クラス1 RPA(Robotic Process Automation)として、その限界性に言及します。
RPAのクラス
(出典:「RPA(働き方改革:業務自動化による生産性向上)」総務省)
ここで注意しなければならないのは、「定型業務」の内容です。
定型業務とは、データ入力、記帳、請求書作成、支払指示書、
日報など作業内容に一定のパターンがあってマニュアル化、
BPO(Business Process Outsourcing)や外注化が可能な業務です。
世界的にもSOP(Standard Operating Procedures:標準作業手順書)があり、
具体的な作業や進行上の手順が一つ一つ決まっているものです。
RPAの最大の目的は業務における作業上の工数の削減・効率化です。
RPAクラス1での限界点
定型業務のロボット化がRPA(クラス1)でできる範囲です。
それも次のような、ハードウェア、ソフトウェア、データ上の制約があります。
それを超えたものはAIの力を借りないと難しいですね。
コンピュータのハードウェア環境
PCの物理的稼働環境が必要。
*AIでも共通ですが、電源やネットワーク環境のないところでは稼働に制約があります。
高音多湿の過酷な環境では特殊機器が必要です。
災害時や非常時には稼働できない。
ハードウェアスペックに制限される。
*一部クラウド上のアプリケーションもありますが、スタンドアロンで使用する場合
バックグラウンド・ジョブで実行できない場合があります。
その場合はPCが占有されるので他の処理は実行できません。
コンピュータのソフトウェア環境
OSが限定される。
*多くは最新のWindows環境。MacやLinux、UNIXでは関連ツールが動作しない場合があるます。
文字コードの限界がある。
*多くはJIS第1水準までで、第2水準、第3水準、第4水準に対応していない場合があります。
元SMAPの草彅剛(くさなぎつよし)さんの「彅」はシステムによっては表示できない場合もあります。
データ環境
算用数字(1バイトデータ)と文字数字(2バイトデータ)、
漢数字(一、二、三、十/壱、弐、参、拾)などの混在には要注意。
*AIであれば、前後の文脈からデータ長読み取って最適な形式で必要欄に入力してくれます。
OCR
枠付き記入欄からの読み取り。
*枠無しや縦書きの対応はAI搭載OCRでないと難しい場合があります。
顧客名簿の入力業務や各種の台帳作成などは、扱うデータの種類や記入用紙のフォーマットに注意しないといけません。
音声対応
音声ガイダンスやIVR(Interactive Voice Response)での制約。
単一言語での定型文での対応になります。
問合せ者が英語や中国語で話してきても固定言語(例えば日本語)のみでの対応です。
メッセージも一歩通行です。
社内システム環境
社内システムの修正に未対応。
*RPAは部門や部署などで箇所導入する場合、基幹システムが変更になったり、
アップデートされた場合に追随しません。それぞれの箇所でパッチを充ててやる必要がでます。
RPAの限界に対する対策
クラス1の限界についての対策は、簡単に言えばAIを使うことです。
クラス2以上のRPAです。
例えば、グローバル企業や海外支店がある場合AIであれば
「サマータイム」や時差への対応も自動的に行われますが、
RPAでは日本時間や現地時間の単一時間での対応となります。日報や月次集計などで不整合が発生します。
チャットボットも文字入力しか受け付けられなかったものも、
音声やジェスチャーでの入力も可能になります。また言語も多言語対応になります。
このような技術的対応も、勿論大事ですが一番のポイントはマネジメント上の見極めです。
RPAの限界に対する対策は、難しく言えば、マネジメントです。
人事と同じで、この業務に誰が向いているか、
一番パフォーマンスをあげるのは誰なのかを見抜くことと同様です。
RPAに任せるかAIが最適か、それとも人が行うことが良いのか。
コストパフォーマンスを考えて業務の割り振りをするのが賢い使い方です。
仕事が進まないことを部下の責任にするような上司やマネージャーはRPAやAI導入メンバーから外すべきです。
作業の効率化や業務の停滞をRPAやAIに転化してマネジメント上の責任を回避してしまうからです。
RPAもAIもツールとして割り切って企業や組織活動に貢献させる観点が限界や制約事項を超える唯一の手法と言えるでしょう。
RPAに対する過大評価も危険ですが過小評価はもっと危険です。
利益の損失で大きいのは今ある利益を失うことではなく、これから得られるべき利益に気がつかないことです。
小売業でよく言われる「チャンスロス」は、売れるべき時に商品がないことです。
まとめ
限界や制約事項がわかりやすいものほど、仕事を円滑に進めるうえでは有利です。
業務上の最大の桎梏は結果が予想できないことです。
想定外の事項には人も組織も対応できません。
その意味では、限界のわかりやすいRPAは非常に仕事では使いやすいツールだと言えます。
限界や出来ないことを明確にできれば補完手段やバックアップ体制を事前に準備できます。
株価と同じです。もし暴落することが事前に察知できれば”ブラックマンデー”は回避できたかもしれません。